極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 杉井電産の娘経由でアプローチ、か。

 あながち非現実的ではないかもしれない。

 自分と同じく社長の子どもとして生まれ、彼女も不自由な人生を送っているのかもしれない。

 いや、むしろ俺とは違って後継者としての重圧などなく、社長令嬢の立場を謳歌しているのか。そういった女性も多く見てきた。彼女がどんな人間なのかはこの際関係ない。

 上手くいけば父に対して株を上げられるし、ラグエルにとっても悪い話じゃない。どちらにせよ暇つぶしにはちょうどいい。

 相変わらず、自分は利己的だと思った。

〝杉井未亜〟〝二十三歳〟

 同じ業界に身を置く同士、杉井社長の娘である彼女の情報はすぐに用意できた。

 杉井電産の本社に勤務し、趣味は絵画館賞。このパターンは見飽きた。父親のコネで就職し、社長令嬢として掲げるのにはぴったりの趣味だ。

 どうやら彼女も、親がその他大勢の立場ある人間の娘と同じらしい。

 ただ、年齢の割にはどこかあどけなさの残る彼女の写真を見て、実物はどんな感じだろうかと少しだけ会うのが楽しみになる。

 期間限定の印象派展を訪れたのは、未亜と共通の話題を用意するためだった。

 芸術を楽しむのはそれなりのステイタスだ。アメリカにいる頃も好きな音楽家や画家について尋ねられる機会は多く、それなりの地位でいるからには、教養と知識は必要になる。

 彼女もおそらくそうなのだろう。必要に迫られてとでもいうのか。
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