極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「……茉奈、はじめまして」

 優しく返す衛士の顔を茉奈はじっと見つめる。

「ま?」

 ややあって、誰?とでも言いだげに茉奈は首を傾げた。続けてうかがうように私に視線を移してきたが、言葉に詰まる。なんて茉奈に伝えるべきなんだろう。

「ばっ、ばーい」 

 悩んでいると突然、茉奈が衛士に向き直り手を振り始めた。私以上に驚いている衛士に、笑いながらフォローを入れる。

「最近、こうやって手を振るのが好きなの。振り返してあげて」

 けっして別れたいわけでも離れたいわけでもない。言われるがまま衛士は茉奈に見えるよう手を振った。

「バイバイ、茉奈。また会いに来てもかまわないか?」

「たー」

 衛士の質問に茉奈は元気よく答えて彼の方に身を乗り出す。バランスを崩しそうになり、思わず茉奈を抱っこする手に力が入った。

「たーち」

 次に茉奈がとった行動に目を丸くする。大きな彼の手のひらを茉奈が叩いたのだ。もちろん親愛の意味で。

 茉奈はあまり人見知りはしないタイプだけれど、ここまで初対面の大人の男性に早く打ち解けることはなかなかない。

「いいみたいよ」

 思わず笑みがこぼれ、衛士の質問に茉奈の代わりに答えた。すると茉奈が自分で歩くと下りたそうに、足をばたつかせ腕の中で暴れだす。

「あ、茉奈。だめだよ。ここは駐車場で車が来るかもしれないから」

 そろそろ茉奈の集中力も限界だ。右肩にかけたままの茉奈の保育園バッグがずり落ちそうになり、再度かけ直そうとすると、肩に食い込んでいた紐がふわりと浮いた。
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