極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「部屋まで運ぶ。それから仕事に戻るよ」

 とっさに断ろうかと思ったが、腕も痺れてきているし、どっちみちこの体勢はなんとかしなければならない。

「ありがとう」

 小さくお礼を告げ、衛士に支えられている鞄の紐から腕を抜く。

「意外と重いな」

「着替え三着におむつとかの汚れもの、今はプールもあるからね。夏場だから二日に一回布団を持って帰ってくるし」

 軽く説明して茉奈を抱っこしたまま歩き出す。

 駐車場を抜けてからは茉奈を下ろして手を繫いで部屋まで向かった。茉奈に気をとられ、あまり衛士とは会話せずあっという間にドアの前までたどり着く。

 妙な緊張感に包まれているのは私だけなんだろうか。べつに衛士に住んでいるところが知られているからってなにか問題があるわけではないんだけれど。

 鍵を開けると茉奈は上がりかまちのところにちょこんと座り、さっさと靴を脱ぐと我がもの顔で中へ走っていく。

 いつものうしろ姿を見送り、私はため息をついた。きっとお気に入りのぬいぐるみを取りにったのだろう。

「忙しいのに運んでくれてありがとう」

 気を取り直し、衛士から茉奈の荷物を受け取ろうと手を差し出した。

「ん。……茉奈は、未亜によく似ているな」

 手渡されながらしみじみと呟かれ、私は反射的に目線を落とす。

「……衛士にも似てると思う」

 発言してからこの切り返しはよかったんだろうかと不安になる。彼にとって先日知った娘の存在はきっと青天の霹靂で、さらには本人と会ったばかりだというのに。
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