極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「俺が茉奈や未亜ともっと一緒に過ごしたいんだ」

 宣言するような懇願めいた言い方だった。温もりどころか息遣いや心音まで伝わってきて、逆にこちらのささいな動揺さえ気づかれてしまうのではと不安になる。

「で、出かけるってどこに?」

「水族館にしよう。茉奈が興味を示していた」

 思いきって尋ね返すと、すぐさま回答が返ってきた。さっき衛士に読んでとねだっていた最近お気に入りの絵本は、水族館が舞台になっている小さな魚が主人公の物語だ。

 茉奈のことを考えてくれての申し出だと思うとやっぱり嬉しくなる。

「茉奈、水族館に行ったことないからきっと喜ぶと思う。でもイルカのショーを観るには、かなり早い段階で座ってないと無理だよ?」

 近くにある水族館はアシカやイルカなどのショーに力を入れていて、とくに一番人気なのはイルカショーだ。

 そのぶん、限られた席の争いはなかなか熾烈だったりする。これは実体験だった。

「わかってる。前の方の席を狙うなら尚更だな」

「茉奈がいるから、そんな前じゃなくていいよ」

 苦笑しながら衛士に返す。すると彼は私の頭にそっと手を置いた。

「絶対に前で観るって譲らなかったのに」

「あ、あのときは」

 さっきから私たちが話しているのは過去の話に基づいてだった。衛士とのデートで以前、私たちは水族館を訪れている。張りきる私に衛士は呆れながら付き合ってくれた。
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