極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「お疲れさま。お茶淹れようか?」

 声をかけると彼の視線がすぐさまこちらを向く。

「いや、かまわない」

 すげなく断られ考えを変える。ただでさえ忙しいのだから、このまま帰宅するのかもしれない。茉奈との交流も済んだことだし。

「未亜」

 余計な提案だったと思っていたら、タブレットを傍らに置いた衛士に名前を呼ばれる。

「なに?」

 キッチンに向いていた足の方向を変え、彼に近づくと不意に手を取られた。そのまま強く引かれ、反対の手は腰に回される。

「わっ」

 完全に油断していた私は衛士の方に身を乗り出し、気づけば彼の膝に座らされ背後から抱きしめられる体勢になる。

 あまりにも手慣れている彼に動揺が隠せない。

「次は未亜の番」

 うしろから囁かれるのと同時に背中越しに体温が伝わる。

「頼んでないよ」

 心臓が激しく打ちだすのを誤魔化すために、ぶっきらぼうに答えた。抵抗して立ち上がろうとするが、前に回された腕の力が思いのほか力強い。なんのつもりなんだろう。

「俺が未亜に触れたかったんだ」

 私の心の内を読んだのか、真剣な声色に意識せずとも体が熱くなる。平静を装わないと。

「わ、私は」

「今度、三人で出かけないか?」

 彼の提案に私は言葉を止め、目を瞬かせた。軽く身じろぎしつつ顔は前を向けたまま答える。

「でも衛士、忙しいでしょ? 無理しなくても今のままで茉奈は十分に」

「無理はしていない」

 きっぱりとした口調で遮られる。続けて腕の力を強められ、私はさらに彼と密着するはめになった。
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