極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「茉奈には泣くのを我慢する子にはなってほしくない……私は許してもらえなかったから」

 衛士の視線がこちらに向けられたのがなんとなく伝わるが、私はうつむいたまま顔を上げられなかった。

 幼い頃、私は自分で言うのもなんだが泣き虫な方だった。転んで怪我したときはもちろん、幼稚園の男の子に意地悪されては涙し、そんな私を父は鬱陶しく感じていたんだと思う。

『泣くな。泣いてなにが変わるんだ』とよく叱られた。対照的に母は、存分に私に寄り添って泣くのを許してくれた。

『未亜、つらかったね。大丈夫よ』

 優しく母にそう言われると、堪えていた涙があふれ出る。大好きで優しい母。でも小学生の頃に母が亡くなり、私も父も深い悲しみに突き落とされた。

 葬儀の間も、その後も父は私の前ではけっして泣かなかった。だから私も泣いてはいけないと思った。父がつらい立場にいることくらいわかっている。父は私が泣くのを嫌っていた。

 大丈夫。小さい子どもじゃないんだから。必死で言い聞かせて感情を押し殺す。

 そうやって慣れていった。成長するにつれ父の言葉も理解できる。泣いたってなにも変わらない。だからって茉奈は私みたいになってほしくない。

『未亜みたいに?』

 以前、衛士に言われた言葉を思い出す。その通りだ。

「茉奈を自分と重ねて、衛士にあんなふうに言っちゃったの。ごめんね」

 衛士は私の説明に口を挟まずただ聞いていた。ちらりとうしろを見ると、茉奈の目は半分閉じて、外をぼんやり眺めている。

 その腕にはしっかりと買ったばかりのぬいぐるみが抱かれていた。よっぽど気に入ったらしい。
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