極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「お、茉奈、泣かなかったんだな。偉いぞ」

 笑顔で茉奈を励ます衛士が発した言葉に私は思わず反応してしまう。

「偉くない」

 ぴしゃりと呟いた私に、衛士が目を丸くして茉奈から視線を移した。私は静かに続ける。

「泣かないのが、偉いわけじゃない。そんなふうに言ったら痛いって言えなくなっちゃうよ。茉奈、大丈夫だった?」

 私もしゃがみ、茉奈と目線を合わせる。ややあって茉奈の目から大粒の涙があふれだした。私はそのまま茉奈を抱き上げる。

 おそらく怪我をしたわけではなく、驚いたのと疲れがピークに達したのだろう。茉奈の泣き方は痛さを訴えているのではなく眠たくてぐずるときのものだ。

「茉奈、大丈夫か?」

 衛士が気まずそうに声をかけてきたので私は軽く頷く。

「うん。いつもならお昼寝の時間だから眠たいんだと思う」

 もう帰る流れになっていたとはいえ、私たちは無言で彼の車まで歩いていく。楽しかった雰囲気がどことなく重くなってしまい、私の中で言い知れぬ罪悪感と後悔が渦巻く。

「さっきはごめんね」

 茉奈を車のチャイルドシートに乗せ、助手席に乗り込んだタイミングで私は口火を切った。

「いいや、俺こそ考えなしの発言だった」

 衛士が前髪をくしゃりと掻く。その表情はわずかに曇っていて、彼にそんな顔をさせるつもりはなかったと胸が痛くなる。

「違う、衛士は悪くない。茉奈は褒められたって嬉しかったかもしれないし、感情を抑えるのが大事なときもあるから。ただ……」

 そこで私は言葉を止めた。静かなエンジン音だけが車内に響く。
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