極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 茉奈はなにが起こったのかわかっていないようで、相変わらず指輪に意識が向いている。

「綺麗だね、茉奈」

「れーね」

 心なしか茉奈も嬉しそうだ。もうしばらくつけたままでいいかな?

「未亜、今度必要な家具を一緒に見に行こう。茉奈の成長や安全を考えたらどれがいいのか検討する必要があるだろうし、未亜の好みもあるだろ」

「あ、うん」

 ここに引っ越してくる話を振られ、私は頷く。

 もしかしてこの家に必要最低限のものしかないのは、私の意見を聞いてから家具を揃えるためだったの?

 その結論に至ると、殺風景だと思っていた部屋の印象が変わってくる。

「未亜は飾りたい絵があるんじゃないか?」

 おかしそうに尋ねられたが私は笑って返せなかった。私が思うよりもずっと、衛士は私と茉奈のことを考えていてくれたんだ。

「どうした?」

「なんでもない。茉奈、急に広い家になっちゃうから喜ぶだろうなって」

 やっと笑顔で返す。今のアパートが悪いわけではないが、元気がありあまっている茉奈にはやはり広いところがいいのかもしれない。

「なんなら今日からでも住んでもらってかまわない」

 衛士の切り返しに苦笑する。気持ちは有り難いが、そういうわけにもいかない。なにも準備していないので泊まることさえ難しそうだ。

 茉奈はすっかり目が覚めたらしく私の腕の中からすり抜け、そこらへんを物珍しそうにちょこちょこ歩き回っている。

「ありがとう、でも帰らないと」

「帰したくないな」

 口調は軽かったが、衛士の顔がどことなく寂しそうに感じた。
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