ココロの距離が離れたら

昼下がりのオフィスは、ランチから戻る社員のザワザワした空気に包まれている。
その大勢の1人でもある鈴木綾はランチ後の歯磨きと化粧直しを終えて、午後の始業開始10分前に席につく。
外で買ってきたコーヒーはほど良い温度になっていて、それを両手で持ちながら、PCを立ち上げていたとき、経理部長からの呼び出し声に気づいた。

「鈴木くん、ちょっといいかな」
「はいっ」

私が勤めている企業は建設業としては大手。大きなプロジェクトが常に動いていて、それぞれの部署が年中忙しい。特に、新人から脱して、これから中堅に進もうとする20代後半の社員というのは、いわゆる「働き盛り」。仕事が楽しいと思える年齢になっている。

鈴木綾の所属は経理部。このフロアは総務、人事、経理のスタッフフロアとなっていて、多くの社員が午後の仕事に取り掛かろうとしている時間だった。勿論、綾も他部署から届いた経費精算の束を手に、午後はその入力と確認作業を進める予定ではあるのだが。
経理部長からの声かけに、少々不安になる。

私、なにかやらかしたかな・・・?

目標管理の面談は来週だったはず。いやいや、それ以前に課長から頼まれた資料はすでに提出していたし、部長からも高評価だって聞いていたし・・・。え、なに?
目まぐるしく、ここ最近の自分の仕事を振り返ってみるが、いや、ミスはないはずだ。うん。
ドキドキする胸を抑えながら、経理部長についていき、部長に続いて会議室に入り、音をたてないように気を付けながらドアを閉める。
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