ココロの距離が離れたら

これで何回目だろう。

眠ってしまった大智の胸に体を寄せて、できるだけぴったりとくっつく。
彼のぬくもりが大好きで、彼の匂いが大好きで、彼の声も好きだった。
嫌いな部分なんてない。忙しい彼を支えることが嬉しくて、楽しくて仕方ない。
一緒にいたいし、助けてあげたい。
綾の気持ちはそればかりだ。

でもちょっと重いのかもしれないな、私って。

そう不安になって溜息が出た。
綾と大智とは同期だった。
同じ「鈴木」という苗字だったから、入社式は隣同士、その後のオリエンテーションや研修があっても綾の隣りの席は大智で。一緒に研修課題を解いたり、相談したり、お昼を食べたり、同期のみんなで飲みに行ったり。そんな他愛ない時間の中で、気さくで優しい大智に綾が惹かれて好きになるのも早かった。
だがしかし、綾は引っ込み思案な性格だ。自分に自信がなくて、大智に想いを告げるなんて全く考えていなかった。何しろ、大智は背も高くて、手は大きくて、黒髪は短くスッキリとしているし、近くで見たときの瞳は優しくて、甘くて、足が長くて・・・。
言い出したら切りがないくらい、魅力的な男性だったのだ。もちろん、同期で一番人気だった。

そんな大智とのつきあいに進展があったのは、入社2年目だった。初めて大智が大きなプロジェクトに入ることができて、プロジェクト費用の計算の仕方、提出の仕方がぐちゃぐちゃで、提出締切数日前に経理部に駆け込んできた。

「綾っ 助けて!!」

いつもは皆をリードしている彼が、本当に困っているんだ、というようにこちらを見上げてくる姿は、なんだか大型犬が一生懸命ご主人様に甘えているようにも見えて、綾は一緒にプロジェクトの費用計算を手伝った。
楽しかった。経理部にいて良かった、と綾が心底思った日だった。
夜遅くまで連日残業して、すべての書類が間違いなく提出できた時、大智が言ったのだ。

「綾に助けてもらって本当に良かった。お前すごいな、こんな細かい数字の世界にいて、間違いないようにサポートしてくれるんだもんな。」
「それは、私の仕事だからね。逆に大智みたいな大きな仕事はできないから。それこそ大変でしょう? 頑張ってね」
「おう、頑張る!」

にっこり微笑んだ私に、彼は力強く頷いて、そのまま手を伸ばしてきた。
私の、手に。

「あのさ。綾」
「え?」
「もう、言わずにいられなくて。ずっと我慢してたんだけどさ。」

熱っぽい視線に、呼吸まで止まりそうで。
掴まれた手はとても、熱くて。
心臓がドクドク、と早くて。

「ずっと、オレ専用の綾で、そばで応援してほしい」
「あ、の・・・」

お願いだからさ。という声が自分の顔の近くで響いて、
きっと真っ赤になっていただろう私の頬に軽くキスを落として、

「オレの彼女になってください」

そう言ってくれたのだった。
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