ココロの距離が離れたら

それから3年が経つ。
今は大智がリードしなくてはいけない大きなプロジェクトがあって、大智は秋からそれにかかりっきりだ。
綾としてもどれだけ大智がそのプロジェクトに力を入れているか、頑張っているかが分かっているから、しっかりサポートしようと思って、実際に応援していた。

遅い時間に帰ってくることを見越して、温めなおして食べられる消化の良い夕食を用意しておいたり、土日も休出で家の片づけがままならないことを聞けば、家を片づけたり。
冷蔵庫の中が空っぽなことも多くて、1人でも食べれるようなものを買ってはおいておいたり。
大智のマンションに泊まった時は朝ごはんを用意して、彼が仕事に行くのを見送って、片づけて、洗濯して帰る。もちろん、大智のマンションには綾の着替えやお泊りセットも置いてあるが、無断で泊まるわけにもいかず、綾が泊まれるのは大智に誘われたときだけだった。

「今日は泊まってってよ」

その言葉を毎週毎週待っているなんて、大智はきっと知らないだろう。
本当は毎週じゃ足りない。毎日一緒にいたいのに。

大智がぐっすりと眠っていることを確認して、綾は溜息をつく。

「大智、相談したいことがあるんだよ?」

独り言だ。彼には今、こんなことさえも響かないんだろう。分かっている。仕方ないんだから。

長期出張になりそうなの。返事は月末でいいよって言ってくれているけど、その月末はもう来週に迫っている。
そして、その月末は綾の誕生日なのだが。

忘れてるかもしれない・・・。

そんな不安さえもある。
去年なら11月に入る前に、綾の予定を確認してくれて、誕生日のデートを2人でどうしようかワクワクしながら話して。結局は仕事の日だったから、ちょっとお高めなイタリアンレストランで美味しい夕食を食べて、2人で愛し合って、その時は綾の誕生石のピアスをもらって。
嬉しくて嬉しくて。
その日から綾のピアスは優しい色に輝く水色のトパーズになった。もう毎日。
それを見た大智が、ことあるごとに、「トパーズって色々な色があるんだな」と言いながら、色違いの石を1つ、また1つとプレゼントしてくれた。
11月に生まれてよかった!!と、綾はここでも嬉しくなったものだ。

でも今年は。
まだ何も伝えられていない。来週金曜日はもう11月30日になってしまう。
自分から誘えない綾も悪いと思うが、この忙しい状況で、自分の誕生日だから…というのも気が引ける。

「忘れてないよね? 大智?」

声が小さくなると同時に、綾は体も縮こませて、きゅっと大智にくっついた。
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