ココロの距離が離れたら
(3)
「なんで起こしてくれないんだよ!」
「えっ?」

スマホのアラームが鳴り、がばっと体を起こした大智に言われた一言目がそれだった。
昨夜、中々寝付けなくて、綾が起きるのが遅れた・・・というより、土曜日だ。寝過ごして何が悪いんだろう。
とにもかくにも、寝起きの綾の頭の中は疑問ばかりだ。怒鳴られる意味が分からない。

「ど、どういうこと? 土曜日でしょ?」
「今日は仕事なんだよ!休出!! 言っておいただろ!」

あーもうっと言いながら、バタバタとバスルームに飛び込んでいく大智を、呆然として綾は見ていた。

休出? そんなこと聞いてないけど。

ハタと時計を見れば、もう8時を回っている。土曜日の朝にしては健全な目覚めだと思うのに。
とはいえ、急いでいる大智に合わせて、綾もパタパタと身支度をして、トーストとスープと、簡単なサラダと目玉焼きを用意していく。
バスルームから出てきて、シャツに手を通しながらキッチンに来る大智に、綾が声をかける。

「大智、食べて・・・」
「食べる暇なんかないよ!」

え?
そんなにイライラするところ?

「今日はマネージャーも朝から来るってなってるんだ。綾に言っておいただろ?」
「聞いてないよ?」
「はっ お気楽だな」

ええ?
確かに、忙しいとは聞いていて。
昨日も帰りは深夜だったから、簡単な雑炊を食べて、そのまま寝てしまうのかな?と思っていたのに、綾に泊まってってと言って甘えてきたのは大智だったと思うんだけど。そんな中で明日の話しなんて全くしていなかったのに。

バタバタと支度をして、朝食には見向きもしないで出ていこうとする。
と、携帯電話からのコールに気づき、大智は片手で電話を持ち、片手でバックの中を確認する。

「あ、ああ、おはよう。萌ちゃん。ごめんごめん、寝過ごしちゃった。うん、うん、大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね。うん。今から家出るところだから。あー、うん。助かる!また後でね」

そういうと、玄関ドアまで行き、

「綾、またな」

そういって出て行ってしまった。
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