悲劇の王女は生まれ変わってハピエン主義の人気小説家になりました
 もう遅いからとセレナを部屋まで送ったラシェルは書斎に戻り、物言わぬ本棚相手に問いかける。もちろん相手はリタ・グレイシアの棚だ。

「俺は、何を……?」

 あの時、無意識に伸びかけていた手を握る。我に返って押さえたが、妻の笑顔を目にした瞬間、触れたいという衝動をに突き動かされていた。
 初めて握った妻の手は柔らかく、女性らしいもので、昨日握ったリタ・グレイシアの手を思い出させた。顔を見ることは許されなかったが、きっと妻のような華奢な人物なのだろう。
 しかしリタに抱くのは強い尊敬と感謝だ。先ほどセレナ相手に感じた心の内から湧きあがるような強い衝動とは違う。
 ラシェルはもう一度、本棚に向けて問いかけた。

「リタ・グレイシアよ、教えてくれ。君の本に登場した男たちもみな、このような感情を胸に抱えていたのだろうか」

 身を焦がす初めての感情にラシェルは一晩中戸惑うのだった。


 二人の間に芽生えたものが恋愛と呼ばれるようになるまであと少し――

 交わることのなかった二人の関係はこの日を境に動き出す。
 リタの書く物語に登場する恋人たちのように、心で結ばれた本当の夫婦になる日も近いだろう。
 一人で抱えるには大きすぎる怒涛の展開に、早く母に会って話したいとセレナはその日を楽しみにしていた。
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