別れを選びましたが、赤ちゃんを宿した私を一途な救急医は深愛で絡めとる
「怖かったでしょう? でも、やめないでください。あなたに会えるのも楽しみですから」


意外なことを言われて、びっくりしてしまった。


「あっ、ありがとうございます。優しいお客さんに出会えて、私も幸せです。今日もお疲れさまです。またぜひお越しください」


私は手早く会計を済ませて、彼に弁当を渡した。


「大切にいただきます」


天沢さんは重さんに軽く会釈してから店を出ていく。


「ありがとうございました」


私はもう一度彼のうしろ姿に深々と頭を下げた。


「いい人だねぇ」


重さんがしみじみとこぼす。
奥さんの恵子さんは時々店頭に立つので天沢さんを知っているが、厨房担当の重さんは今日初めて顔を合わせたのだ。


「はい。週に何度か来てくださるんです。お忙しいみたいで、食彩御膳は売り切れていることが多いのですが、いつも楽しそうに選んでいらっしゃって」


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