マリアの心臓



その一歩手前の裏道にバイクを停めた。

違和感なく人混みに紛れていく。


ここはいつ来ても、うるさい。

酔いそうなほどの混雑に、無意識に歩幅が広がっていった。




「あ、ここじゃね?」

「ここが、参謀のヤツがよく通うっていう服屋?」

「まちがいない、ここだ」




繁華街の片隅にかまえられた、高級ブティック店。


いかにもな、ゴールドの看板。

ガラス張りの店頭には、数体のマネキンが、洗練されたスーツを着飾っている。


店名、位置、外装ともれなくチェックし、情報と完全一致。

ここの常連リストに、痩せ型の中年男――今夜の標的がいるはずだ。


すでに中に標的がいないか、鈴夏がうかがってみる。




「うーん、それらしい男はいないな。白園(シラソノ)学園のヤツらしか入店してないっぽい」

「白園学園って……金持ちしか行けねえ学校じゃん。ここで制服仕立ててんの? すげー」




好奇心をくすぐられ、羽乃も店内を覗いた。


繁華街特有のうるささもいやだが、上流階級の派手さも、もう、好きになれない。

頭が痛くなる。




「もしかしたら、衛も、白園学園の生徒だったかもな」

「……んなことねえよ」




羽乃のなにげない「もしも」に、付き合ってやれる余裕はなかった。


そんな「もしも」は、要らないんだ。
想像したって、現実との落差に傷つくだけ。


おれは、この先ずっと、きっと、堕ちていくしかできない。


それが、おれに課せられた運命だったんだ。


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