マリアの心臓



その日、ボクは、兄じゃなくなった。



葬儀らしい葬儀はしなかった。できなかった。

そんなお金も余裕も、到底持ち合わせていなかった。


死に目どころか、遺体にすら会えなかった。

そういう病だから仕方ないのだと、医者に謝られた。

意味がわからなかった。


なぜだと問い詰め、憤っているのはボクだけで、母さんは思いのほか動じておらず、むしろ医者を庇うような真似までしていた。

母は強し、とはまさにこのことかと思ったが、それでもなおさら意味がわからなかった。


わからないから、父さんのせいにした。



私欲でしかない罪に、ボクの手で罰を与えてやらないと気が済まなかった。


母さんに内緒で神亀に入った。
悪いことを、覚えていった。


居場所がわからなかった父さんを、たやすく見つけられた。

殺って殺り返してだった前回とはちがう。一方的だった。

ボクは強くなってしまったんだろう。壊して、壊して、壊し続けた。



『た、助けてくれ……!』



地べたに這いつくばって乞う様は、実に滑稽だった。


今さらだ。おまえは助けてくれなかったくせに。

ざまあみろ。
これは当然の報いなんだ。


気づいたときには父さんの意識はなかった。


こんなもんだったのか。
拳は痛くもなんともなかった。



きっと、ボクはどうかしてしまったんだ。

心のどこかでそう自覚していながら、それでもいいや、と自暴自棄になっていた。



マリアを奪われた今。

ボクにできることはこの程度しかないのだから。


なあ、神さま、そうだろう?


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