マリアの心臓



決意を新たにした、4日後のことだった。


――転院した先で、マリアが、死んだ、らしい。





『鈴夏……っ、ごめ、ごめんね……っ』




頭の中が、真っ白だ。

どうして母さんが泣きじゃくっているのか、わからなかった。

学校から帰ってきて、宿題もそっちのけで、いつもどおり見舞いに行こうと、転院先と病室を聞いただけだ。



それが、どうして。




『マリアが、なんて……?』

『病態が急に悪化して、そ、そのまま……っ』

『……え……? なんで……どうして……?』




だって、つい最近、会ったんだよ?

傷の手当てをしてくれたんだ。
笑っていた。


たしかに、生きていたのに、どうして。




『どうして……? どうして……!!』

『ごめん……ごめん、鈴夏……っ、ごめん……』




暴れるボクを、母さんが強く抱きとめた。

詳しいことは何も言おうとせず、ごめんの3文字だけをただひたすら繰り返すばかり。


ふたりで住むには少しばかり広い家の真ん中で、泣き崩れ、叫び散らし……あまりの苦痛に胃の中のものを吐き尽くした。




『っ、……あいつの、せいだ……』

『すず、か……?』




あいつが。

父さんが、追い詰めたせいだ。


だからマリアはいなくなったんだ!


何もかも父さんが悪いんだ。


許せない。



……許さない!



…………ちがう。

こんなの、八つ当たりだ。


そんなことわかってる。
だから何だって言うんだ。


誰かのせいにしないと、生きていけなかった。

現実から逃げ出してしまいたかった。


< 140 / 155 >

この作品をシェア

pagetop