マリアの心臓
もしかしたら、今日は、厄日ってやつなのかもしれない。
「――……っこほ、ごほっごほっ」
急激に沸き返った血流に、叩き起こされた。
冷えたコンクリートに吸い取られた温もりを、なんとか取り戻そうとしているのか、体内がやけに熱い。
……って、コンクリート?
定まり切らない意識のなか、辺りを見渡す。
そこはたしかに鉄筋コンクリートでできていた。
いったい、ここは、どこだろう。
「……起きたんですね」
「あ、鈴子さん……」
すぐ横に、鈴子さんがいた。
手足を縛られた状態で。
あわてて自分の身も確認する。案の定、アタシも同じ状態だった。移動することもままならない。
「ここは……?」
「たぶん、倉庫です」
「倉庫……」
ほこりっぽいこの場所には、アタシたちふたりだけ。
ナンパしたお兄さんがたは見当たらない。
この状況、やはり……
「劇の演出だね!?」
「は? なに言ってるんですか? 頭イカれました?」
「えっ?」
「こんなところで劇をやるわけないじゃないですか。おふざけミュージカル映画じゃあるまいし」
ぜ、全否定!?
え? え!? ち、ちがうの?
これはリアル!? リアルサスペンスなの!?
思わず黙り込んでしまうと、鈴子さんは気まずそうに目を逸らした。
「……すみません。冗談を言ってリラックスさせようとしてくれたんですよね」
「え……あ、う……」
「お気遣いありがとうございます」