マリアの心臓



そうなると。

いつもの癖で好奇心に負けて、盗み聞きしちゃったアタシは、やってはいけないことをしてるのでは!?


情報漏洩はぜったい禁止。
ここは見なかったことにして、お客さんのひとりとして楽しむことにしよう!


そうっとあとずさった瞬間。




「ちょっと! 話がちがうじゃない!」




甲高い声が荒々しく昂った。


ど、どうしたんだろう?
仲たがい? 劇の方向性に相違があった?

退散しようにも心配でできやしない。




「反抗期に付き合うのも飽きたんだよ」

「反抗期なんかじゃ……!」

「はいはい。とにかく今度は俺らがあんたを利用させてもらうから」

「つ、通報するわよ!」

「できるもんならしてみろよ」

「きゃっ……!!」




携帯を取り出そうとした少女の腕を、いともたやすく鷲掴みにする。

抵抗もむなしく、携帯を奪われてしまう。


……あれが演技の練習? 本当に?




「いつもみてぇにオニーチャン呼べよ」

「い、いや……やめ……ッ」

「今回はどんくらいで来るか賭けようぜ」

「来たら、こいつ使って潰して……くくっ、あの神亀の壊滅も近いぜ?」

「……あ、あんたたちごときに……っ!」




あ……。

今、こっちのほうを見た……?




「た、たすけ……!」

「ん? 誰に言って…………あ、あの子」

「この前のいい子ちゃんじゃん」




これはリアル? 演技?

どっちにしろ、やるべきことはひとつ。


彼女を、助けなくちゃ!




「鈴子さ――ングッ!?」

「はーい、静かにしような?」




走り出したと同時に、口を覆われ、身動きをとれなくなった。

きつい異臭が否応なしに鼻を突く。




「この際、この子も連れて行こうぜ」

「そのほうが効き目ありそうだしな」

「じゃ、ふたりにはちょっと眠っててもらおうか」




鈴子さんに伸ばした手が、痺れていく。

力が出せない。

視界がくらむ。


体が自分のものじゃないみたい。


……みたい、じゃないか。
はじめから、そうだったじゃないか。



この身体は、アタシのじゃない。


そんなわかりきったことで埋め尽くされた意識が、ぷつんと、途切れた。



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