マリアの心臓
〇
昼休みのチャイムが鳴り終えた。
廊下を曲がった。
右隣で、ウノくんが資料を落っことしそうになった。
と、同時に、
「やーやー、おふたりさん。仲がよろしーことで」
背後にぬっと気配を察知。
びくぅ!!と背中を反らしてしまう。
その結果。
アタシまで手を滑らせ、持っていた紙の束がすべて廊下に散らばった。
絵に描いたような、大惨事。
「すーずーかー?」
「ありゃ。ごめんて。びっくりさせようとしただけなんだけど」
「軽い気持ちで気配消して近づいてくんな! アホ!」
「ボクもまさかこんなことになるとは思わなくって〜あはは〜」
担任からの依頼で、古典のプリントを資料室まで運んでいる途中だった。
アタシとウノくんふたりで、という指名で。
それはなぜかというと。
「ふたりとも、なに? 日直?」
「そ。センセのパシり」
「ごしゅーしょーさま」
「憐れんでないで鈴夏も拾うの手伝えや」
そうなんです!
アタシ、日直デビューしました!
ウノくんと一緒で、周りからの目が気にならなくはないけど、安心感のほうが圧倒的に大きい。
資料を運ぶのも、おつかいみたいで楽しいし、何より日直っていう響きがいいよね! 一度体験してみたかったんだあ。
「なるほどね、日直かー。ふたりセットなのはそーゆーわけね」
「それが?」
「いやあ、さっき衛に絡んだらピリピリしててさ〜、なんでかな〜って思ってたんだよ」
さっき……?
つい今しがた、昼休みになったばっかりだよ?
学年合同で何か授業してたのかな? それとも、サボり!?
個人的学校生活で体験したいことランキング、日直をおさえて堂々の1位の、あの!? わあっ! うらやましい!