離婚しましたが、新しい恋が始まりました
秦野佑介が言った通り、手術のため入院した妻の八重子は何度か紬希に呼び出しをかけてきた。
佑介の助言を聞いていたので、彼女は忙しいことを理由にのらりくらりと誘いを断っていた。
何か面倒な事を言われそうだし、秦野家とは縁が切れたのだからもう関わりたくなかった。
だが、二週間が過ぎて、そろそろ義母も退院すると思っていたので油断していた。
勤務を終えて帰宅しようとしたら、通用口の近くに秦野貴洋が待ち構えていたのだ。
「紬希」
名前を呼ばれて、紬希は身体にゾワッとした悪寒が走るのを感じた。
ダメだった。他の男性とは少しずつ免疫が出来ていたが、夫には嫌悪感しか湧かない。
「何か、ご用でしょうか?」
貴洋は仕事の帰りなのか、スーツ姿だ。以前は身だしなみに気を遣っていた人が、少し皺のあるワイシャツを着ている。靴にもツヤがない。
紬希は出来るだけ離れて、冷たく硬い声で返事をした。
「母から聞いた。君に申し入れても、一度も会ってくれないって」
「すみません。ER担当なので忙しいものですから」
会わないようにしていたら、貴洋まで引っ張り出してきたようだ。
「そうだと思ったけど……母から頼まれたことがあるんだ。今、チョッと話せないか?」