きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
*
『友人と買い物に行ってくるね』
学校から帰宅すると、机上に達筆な母によって滑らかに書いてある置手紙があった。
私は翌日のテストの課題に追われていて、それに目を通すだけ通して、特に気にすることなくすぐに自室に籠った。
母一人での外出は危険だが、友人との買い物なら、まだ安心できた。
課題をしていると時間と進捗度は比例せず、時間だけがあっという間に過ぎた。
明日のテストで悪い点を取ったらどうしよう。
母を悲しませてしまったらどうしよう。
そもそも前日に課題をしているあたり、テストへの意識が低い。
それ故、前日に焦らざるを得ない状況になっているのだ。
だから、明日どうなろうが全て自業自得だ。
時にツッコミを入れながらも、そんなことばかりを考えていたら、ふとミルクティーが飲みたい気分になってリビングに向かった。
リビングに母の姿はなかった。
それも、私が帰宅してから既に数時間が経過しているにもかかわらず、だ。
もしかすると沢山の店を回っているのではないか、と一度は思ったが、今の母の体調で長時間外出することは不可能だと思う。
その時、私は一瞬背筋が凍った。
昼過ぎには時折雲がある程度だった空が、今にも雨が降りそうなほどにどんよりとした雲によって一面を覆われていた。
そんな時だった。
「突然すみません。東屋恵さんのお宅ですか?」
突然電話がかかってきて恐る恐る受話器を耳に当てると、若い男性の声が聞こえた。
恵、は正真正銘、母の名だ。
嘘であれと願っても、親戚に同じ名前はいなかったから、人違いなはずがない。
「はい……」
怖くなってやっとの思いで声を絞り出す。
「恵さんは事故に遭われて……」
その後も淡々と男性は話し続けた。
私は、返事をするのもままならないほどで、いまいち状況が掴めていなかった。
大事な搬送先の病院の情報もあやふやだったが、微かな記憶を頼りに、タクシーに乗って病院へ急いだ。
病院の受付で名前を名乗ると、女性が案内してくれるというので、その後をついていく。
そして、そのまま病院の奥に案内された。
外国にいる父は早くても帰宅は翌日になるということで、駆けつけた叔母さんが、不安に襲われてやっとのことで歩いていた私を抱きしめた。
その場に共に出かけていたであろう母の友人の姿は無かった。
それもそのはず、母は友人と出かけてはいなかった。
あれは私を心配させないための嘘だった。
「蒼来ちゃん、落ち着いて聞いてね」
叔母さんはそう言い何度も私の背中を摩った。
「恵ちゃんはさっき事故に遭ってね……」
叔母さんの言葉がそこで聞こえなくなった。
耳に入っても処理できぬまま反対から抜けていく。
まさか……。
突然そんなことを言われても分からないし、分かりたくもない。
「そのまま亡くなったの」
私が動揺していると、叔母さんは追い打ちをかけるようにもう一度言った。
叔母さんの言い方に覚悟はしていたが、私には受け入れられなかった。
病気の発作なのか、事故に巻き込まれただけなのか。
それすらも分からないまま母の死という事実だけが私の前に現れて私の首を絞めた。
もっと早く転院して病名が分かっていれば、母一人での外出を禁止していれば。
出てくるのは後悔ばかりで自分の無力さに絶望を味わった。
その後、叔母さんに母の顔を見るかどうかを聞かれたが、そんな気にもなれなくて結局最後まで見ることは無かった。
あとで聞くと、事故の衝撃で、母は想像できないほどに変わり果てていたらしく、申し訳ないが目にしなくてよかった、と思ってしまった自分がいた。
翌日には父が帰宅し、父や親戚と共に儀式ひとつひとつをこなした。
そして、参列者誰もが母の突然の死に涙を流した。
この時、私は初めて、人生の呆気なさを知ったような気がする。
『友人と買い物に行ってくるね』
学校から帰宅すると、机上に達筆な母によって滑らかに書いてある置手紙があった。
私は翌日のテストの課題に追われていて、それに目を通すだけ通して、特に気にすることなくすぐに自室に籠った。
母一人での外出は危険だが、友人との買い物なら、まだ安心できた。
課題をしていると時間と進捗度は比例せず、時間だけがあっという間に過ぎた。
明日のテストで悪い点を取ったらどうしよう。
母を悲しませてしまったらどうしよう。
そもそも前日に課題をしているあたり、テストへの意識が低い。
それ故、前日に焦らざるを得ない状況になっているのだ。
だから、明日どうなろうが全て自業自得だ。
時にツッコミを入れながらも、そんなことばかりを考えていたら、ふとミルクティーが飲みたい気分になってリビングに向かった。
リビングに母の姿はなかった。
それも、私が帰宅してから既に数時間が経過しているにもかかわらず、だ。
もしかすると沢山の店を回っているのではないか、と一度は思ったが、今の母の体調で長時間外出することは不可能だと思う。
その時、私は一瞬背筋が凍った。
昼過ぎには時折雲がある程度だった空が、今にも雨が降りそうなほどにどんよりとした雲によって一面を覆われていた。
そんな時だった。
「突然すみません。東屋恵さんのお宅ですか?」
突然電話がかかってきて恐る恐る受話器を耳に当てると、若い男性の声が聞こえた。
恵、は正真正銘、母の名だ。
嘘であれと願っても、親戚に同じ名前はいなかったから、人違いなはずがない。
「はい……」
怖くなってやっとの思いで声を絞り出す。
「恵さんは事故に遭われて……」
その後も淡々と男性は話し続けた。
私は、返事をするのもままならないほどで、いまいち状況が掴めていなかった。
大事な搬送先の病院の情報もあやふやだったが、微かな記憶を頼りに、タクシーに乗って病院へ急いだ。
病院の受付で名前を名乗ると、女性が案内してくれるというので、その後をついていく。
そして、そのまま病院の奥に案内された。
外国にいる父は早くても帰宅は翌日になるということで、駆けつけた叔母さんが、不安に襲われてやっとのことで歩いていた私を抱きしめた。
その場に共に出かけていたであろう母の友人の姿は無かった。
それもそのはず、母は友人と出かけてはいなかった。
あれは私を心配させないための嘘だった。
「蒼来ちゃん、落ち着いて聞いてね」
叔母さんはそう言い何度も私の背中を摩った。
「恵ちゃんはさっき事故に遭ってね……」
叔母さんの言葉がそこで聞こえなくなった。
耳に入っても処理できぬまま反対から抜けていく。
まさか……。
突然そんなことを言われても分からないし、分かりたくもない。
「そのまま亡くなったの」
私が動揺していると、叔母さんは追い打ちをかけるようにもう一度言った。
叔母さんの言い方に覚悟はしていたが、私には受け入れられなかった。
病気の発作なのか、事故に巻き込まれただけなのか。
それすらも分からないまま母の死という事実だけが私の前に現れて私の首を絞めた。
もっと早く転院して病名が分かっていれば、母一人での外出を禁止していれば。
出てくるのは後悔ばかりで自分の無力さに絶望を味わった。
その後、叔母さんに母の顔を見るかどうかを聞かれたが、そんな気にもなれなくて結局最後まで見ることは無かった。
あとで聞くと、事故の衝撃で、母は想像できないほどに変わり果てていたらしく、申し訳ないが目にしなくてよかった、と思ってしまった自分がいた。
翌日には父が帰宅し、父や親戚と共に儀式ひとつひとつをこなした。
そして、参列者誰もが母の突然の死に涙を流した。
この時、私は初めて、人生の呆気なさを知ったような気がする。