きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
「……いや、私は、」

「こうやって知らん人にベタベタとぶつかられるの、ほんまに迷惑なんやけど。ぶつかられる側の気持ち、考えたことある?」

……。

確かに、知らない人にぶつかられて、良い気持ちをする人はいないだろう。

けれど、仮にも、同じ学校に通う生徒だ。

故意にぶつかったかもわからないのに、普通ここまで言う?
確かに前を見ていなかった私だって悪いけれど、私からすると、私だって“ぶつかられた”側なんですけど。

彼の言葉の発する勢いと圧と、それに対する驚きに飲まれて何も言えずにいると、彼は冷ややかで意地の悪い笑みを口元に浮かべ、私に一歩近づく。

「お前は俺に触れられて幸せかもしれへんけど、俺はお前みたいな身勝手な女が一番嫌いやねん。一生近づくな」

「ほらどけよ」と彼はもう一度舌打ちをする。

その舌打ちを聞いた瞬間、お腹の奥底から、何か熱いものがじわじわと込み上げてくる。

「……さいなあ」

「は? 何?」

「うるさいなあ、と思って」

気が付けば、たった今、自分のことをバカにした人を睨みつけていた。

「確かに、喋ることに夢中になって前を見ていなかったことは謝るよ、ごめん。でも、わざとぶつかった? そんなわけないじゃん。誰もあなたに触れたくて触れたわけじゃないよ。自意識過剰もいいところだよね」

一気に言い終えてから大きくため息をつく。

目の前にいる男子生徒は私が言い返すとは思っていなかったのだろうか、ぽかんと口を開けている。

そもそも、この男はどうして人気なんだろう。こんなに性格悪いのに。それに顔だって、別に特別イケメンな訳でもないじゃん。

「ぶつかったのはごめん。もしどこか痛ければ、無理せず保健室へ行ってください。それでは」

大きな身体で入り口を塞ぎかけている彼の横を、身を縮ませながら通り抜ける。

「あ、いや、おい、お前」

「そうだ」

相手が何かを発する前に、私は口を開く。

危ない危ない、一番大切なことを言い忘れるところだった。
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