きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
連休前と変わらず、最寄駅にはあまり人がいない。

駅のホームに記された印の真後ろに二人で並んで立ち、電車を待つ。

長期休暇中に会った級友たちの話をしていると、黙って私の話を聞いていた悠斗と目が合う。

普段と打って変わってあまりにもじっと見つめられるものだから、「なに?」と首を傾げる。

「いや、今日の真凜の化粧、なんかいつもより良いなと思って」

「そ、そうかな!?!?」

思いがけない誉め言葉に、分かりやすく動揺してしまう。

「うん、いつもの真っ赤な唇より、今日みたいな化粧の方が、真凛っぽくて良い」


連休に入る前、お気に入りのコスメブランドから新作のリップが出た。
どうしても発売日に欲しくて学校の帰り道悠斗を引き連れて家の最寄り駅にあるメイク雑貨屋さんに行った。

「ねえ、どっちの色が似合うかなあ?」

深みのある赤色と少し濃いローズピンクを彼の目の前で掲げると、悠斗は迷わずローズピンクを指差した。

へえ、悠斗はピンクの方が好きなんだ。

幼馴染だし、彼の好きなことや嫌いなことはそれなりに知っている方だと思う。

それでも高校生になって始めたメイクについては、彼の好みは全く知らなかった。

また彼の”好き”を新しく一つ知ることが出来たな、と密かに心の中で喜んでいると、悠斗は言った。

「けど、真凛はもっと淡い色の方が似合う」


だから、朝から会える特別な今日は、彼の好きな淡いピンク色のリップにした。

「可愛い」と思ってほしい。

「似合っている」と思ってほしい。

願いはあったけど、そもそも相手は悠斗だ。

サッカー以外興味がないことはよく知っていたから、彼好みの化粧をしても気づかないだろう、とも思っていた。

それなのに。
……急に褒めるなんてずるいよ、悠斗。

本当なら「ありがとう」とか「嬉しい」とか可愛い返事がしたいのに、
「……それは、どうも」
恥ずかしくて素っ気ない返しをするので精一杯になってしまう。

私は熱くなった頬を隠したくて、耳にかけていた髪の毛を下ろした。
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