きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
失恋
学生にとっては一大イベントでもある期末試験が終わると、学校中が開放感で満ち溢れ、夏休みムードに突入する。

「ねえ、夏休み、海に行きたい!」
「えー、海は焼けちゃうから嫌だよ。室内で遊ぼうよ」

夏休みはどこに行こうか。何をしようか。計画を企てる会話が教室中から聞こえてくる。

浮かれた雰囲気は非日常的で、少しだけ高揚感を与えてくれる。


「そうだ、真凛」

お昼休み、スポーツドリンクを買いに行くという悠斗に同行して自販機まで行った帰り道、悠斗は唐突に切り出した。

「俺、彼女できた」

「……カノジョ?」

「おう」

え、今、カノジョって言った?

カノジョって、彼女……?

「それって、えっと……」

「サッカー部のマネージャーの友達らしい。紹介されて、付き合うことになった」

「そ、そっか……」

あまりにも突然の告白に、時が止まったような気がした。

胸が締め付けられて、息が出来ない。声がうまく出せない。

「は、悠斗に好きな人がいたなんて、気づかなかったな~…」

あはは、と乾いた声で笑う。

白々しい笑い方だとわかりつつも、これが今の私には精一杯だった。

「まあ、好きっていうか……告白されたから。マネージャー曰く、良い奴らしいし」

「そうなんだ……」


廊下の大きな窓から入ってくるセミの鳴き声が、やけに耳に響く。

何も考えられなかった。

何も考えられなかったけれど、このまま一緒にいるのは、心が耐えられなかった。


「ごめん、悠斗」

数歩前を行く彼に声をかける。

「私、ちょっとトイレに行ってから戻る……」

彼の返事も聞かず、来た道を全力で戻る。


彼女、彼女、彼女……。

悠斗に彼女……。


「あ、高橋やん」

俯きながら全力疾走をする私に、前からやってきた誰かーこの話し方はきっと宮本くんーが声をかける。

「そんなに急いでどこ行くん? 便所?」

宮本くん、ごめんね、今は答える余裕ないんだ。

だって、もし今、誰かと話したら、もうー…

「高橋?」

聞こえないふりをして隣を通り過ぎようとしたところ、ガシッと腕を掴まれる。

反射的に彼を見上げると、宮本くんは大きく目を見開いた。

「……どうしたん」

泣いちゃダメだ。

私には、泣く権利なんてないんだから。

ギュッと目を瞑りながら小さく深呼吸をすると、無理矢理口角をあげた。

「なにもないよ? ちょっと……」

お腹が痛くて。

続けて言おうとしたのに、やっぱり喉になにかがつっかえていて、声がだせなかった。


「こっち」

宮本くんは一緒にいた人達に「先に戻っておいて」と告げると、グイグイと私の腕を引っ張る。

ああ、もう嫌だな。こんなところ、誰かに見られるとは。しかもよりによって、宮本くんに見られるとは。

けれど、ここで抵抗するほどの気力がもう残っていなかった。
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