きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
「おはよう」

翌朝になってもムシャクシャした気持ちはおさまらず、俺は朝練を終えるや否や、いつもより急ぎ足で教室へ向かった。

「おはよう?」

普段は別に挨拶なんてせえへんから、高橋は少しだけ驚いた素振りを見せた。

挨拶が無視されへんかったことに、少しだけ安堵する。

「あのさ」

声をかけると、高橋はスマートフォンを操作している手を止め、「なに?」と俺を見た。

「昨日、ごめん。嫌なこと言った」

「昨日?」

高橋は何のことかわからんかったようで、首を傾げた。

こいつ、ひどいこと言われたのに、俺に怒ってないんか? 気にしてないんか?

「ほら、放課後。俺、嫌なこと言ったやろ?」

「……放課後?」

高橋は、ぽかんと口を開けたまま俺を見つめた。

なんで伝わらんねん。こっちはもう、言いたくないのに。

「……ほら、“叶わへん恋”って言ったやろ。あれ、ごめん」

「ああ、あれね」

高橋はやっとわかったのか、頬を緩めた。

「別に気にしてないよ」

「けど、お前、」

「だって、本当のことだし」

ああ、もう、こんな顔させたかったわけじゃないのに。

昨日に続いてなんやねん、その変な作り笑い。

どうせ作り笑いするなら、もうちょっとうまく笑って欲しいわ。

まあ、そもそも、こんな顔をさせてしまう俺が悪いんやけども。

「ごめん。あれは酷かった」

「だから良いってば、気にしていないし」

本当に気にしていないよ、と念押しする高橋は、やっぱりちょっと悲しそうで、俺は自分から話しかけておきながら、目を逸らす。

宇山はこいつのこと、あんなに幸せそうな顔にさせられるのにな。
俺は、嫌な顔か困った顔か悲しそうな顔にしか、させられへんねんな。

高橋、ほんまは、あんなに明るく輝くように笑うのに。

俺って……情けないな。


「宮本くん? もしかして……落ち込んでるの?」

俯いている俺に、高橋はクスクスと笑った。

「⋯⋯なにがおもろいねん」

「いやあ、面白いっていうか。宮本くんも、人の心があったんだね」

高橋は声を上げて笑いだした。

ほんまになんやねんあいつ。なにがおもろいねん。

こっちは、昨日の部活中からすっきりしない気持ちを抱えて、
部活終わってから、なんでこんなにモヤモヤするんやろうって考え続けて、
高橋に酷いこと言ってしまったからやって気づいてからは、反省してたのに。

どうしたら謝ってくれるやろう、謝ったら許してくれるんかな、って悩んでいたのに。

そもそも“人の心があったんだね”って、俺は元から人間やわ。

「心配してくれてありがとう。けど本当に大丈夫だから。気にしていないからね?」

安心させるように、俺に微笑みかける。

高橋が俺の為に笑顔を見せたのはこれが初めてやと気付いたのは、朝礼が始まってからだった。


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