きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
「……そんな顔して、どうしたん?」

理科室や家庭科室などの特別教室が並ぶ廊下に連れ出すと、宮本くんはそっと私の腕から手を離し、私に向き合った。

元々授業が無い時はほとんど人が通らないその廊下は、さっきまでいた廊下と同じ建物にあるとは思えないほどしんと静まり返っていた。

宮本くんの声は聞いたことが無いぐらい優しいもので、思わずあふれ出しそうになった涙をギュッとこらえる。

「何もないよ。ちょっと体調が悪かっただけ」

「……ウソつくなや」

宮本くんは私の答えを否定すると、小さく息を吐き出す。そして躊躇うように切り出した。

「話したくないなら無理には聞かんけど……宇山となにかあった?」

宮本くんの口から彼の名前が出た瞬間、思わず顔を歪めてしまう。

これじゃあ、肯定しているのと同じだ。

まあ、いいか。

どうせ悠斗に”叶わない恋”をしていることを、知られていたんだ。
どうせなら笑ってもらおう。

「悠斗、彼女が出来たんだって」

宮本くんの鋭く息をのむ音が聞こえた。

あの、決して人付き合いが上手じゃない悠斗に彼女が出来るなんてびっくりするよね、私でもびっくりしたもん。

「いやあ、私は、告白すらできなかったから悲しむ権利なんてないんだけどさあ」

努めて明るく言おうとしたのに、声が震える。

ああ、もう、嫌だな。私に悲しむ権利はないのに。

今の関係が崩れるのが怖くて告白すら出来なかった私に、悲しむ権利はないのに。
隣にいてくれるだけで十分だと思って告白をしようとすら考えなかった私に、落ち込む権利はないのに。

それに、悠斗に彼女が出来たのだ。

相手は自分じゃなかったけれど悠斗が幸せなら、喜ぶべきことだ。

それなのに。

意に反してポロポロと涙が溢れた時、誰かが話しながら近くにある階段を登って来るのが聞こえた。

慌てて指で涙を拭おうとすると、視界が真っ暗になる。

誰かに抱きしめられたと気付いたのは、数秒経ってからだった。

「へっ……」

間抜けな声が自分から出る。

だって、今、私、

「宮本、くん……」

「……こんなん誰かに見られたら、俺が泣かせたって思われるやん」

トクトク……という彼の早い鼓動が耳に届く。
< 50 / 146 >

この作品をシェア

pagetop