きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
少しだけ空いた窓から海風が吹き込む。

社内の程よく効いた冷房と昼過ぎの暖かい日差しに誘われ、気が付けば窓にもたれかかりながら夢の世界へ行っていて私は、一瞬にして目が覚めた。

「ねえ、海が見えて」

ふと隣を見ると、宮本くんは腕を組んでうつむいている。

そりゃそうか、朝から部活をして、遠出して……疲れるよね。


そういえば……数年前、悠斗の家族と私の家族で1泊キャンプをした時も、同じような状況があったな……。

あの時は確か悠斗は前日までハードな練習が続いていて、キャンプ場に着くまで車の中では爆睡していた。

途中サービスエリアに立ち寄った時、何度起こしても起きないから、悠斗を車に残してみんなで地元の有名なジュースを飲みに行った。

後から知った時は、珍しく拗ねていたっけ。

懐かしいな、あれ、いつだっただろう。二年ぐらい前かな……。
もう、ああやって、悠斗と出かけることは、無いのかな……。

ぼんやりと水色の海を眺めながら回想に耽っていると、「また、そんな顔してる」という声と共に、後頭部をパシッと叩かれる。

「ちょっと、痛いなあ、もう」

「そんなにも、忘れられへん?」

“なにが”とか“誰を”とかは全く言われないのに、どうしてこれほど、宮本くんの質問はわかりやすいのだろう。

「……寝てたんじゃなかったの?」

「ん? なんとなく隣から寂しいオーラを感じ取ったから、起きた」

彼は大あくびをすると、凝りをほぐすように、首をぐるぐる回した。

「まあ、別に無理に忘れろとは言わんけどさあ」

まだ失恋して2日やからな、と彼は丁寧に教えてくれた。

「ただ、誰かと一緒におるときは、ちょっとぐらい忘れてもいいんちゃう?」

ほら、今は俺が一緒におるし、と彼は付け加えた。

「宮本くんは、どうして一緒にいてくれるの?」

私のこと、嫌いなはずなのに。

「んー、だって」

彼は、クシャッと笑う。

「困ったときは、お互い様っていうたやろ? 俺も隣の席になってすぐ、助けてもらったからな」

「ああ、数学のノート、貸したときか」

「そうそう。あれで、アンコウに怒られずに済んだからな。隣の席やし、困った時はお互い様やで」

そうか。

まあ、たとえそうだとしても、ここまでお返ししてもらうのは少しだけ気が引ける
けど、ここは素直に彼の厚意を受け取っておこう。

「それなら、まあ、今日は一杯楽しもうかな」

「うん、その意気や」

彼が笑った時、まるでそれを待っていたかのように、目的地へ着いたことを知らせるアナウンスが流れた。
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