先生との恋・番外編集・
何気ない時に、ふと彼女はぼんやりどこかを見つめて物思いに耽る時がある。
それを見るたびに、入院中も見かけた、あの時の姿と重なって時が戻ったような気になる。
何を考えているかわからない。
だけど、いつも憎たらしいくらいの生意気さのないその表情は、彼女の歳にしては大人びていて。
黙っていると、本当にあの、岡本心なのかと思う時がある。
入院中は、きっと今の自分の状況や、未来への希望を。
今は、きっとあの頃を思い出しているのだろう。
そう思って声をかける。
「お…、こころ」
あの頃の姿と重なって、苗字で呼びそうになった。
ふ、と空を見つめていた視線が僕に向けられる。
「どうした?」
聞けば、きょとんとした顔をする彼女。
ん?と首を傾げられる。
「…いや、何でもない」
ふっと笑みを零して、彼女の隣に座る。
具合悪い?何考えてた?
…昔のこと、思い出してた?
そう聞きたい気持ちをぐっと抑えて。
体調のことを聞かれるのは嫌だろう。
何考えてたのかも、言いたくないかもしれない。思い出してた、なんて知られたくないかもしれない。
彼女は僕に、手術前後のことは言わないようにしているみたいだ。
僕が気にすると思っていて。
…時々、そのまま消えてしまうんじゃないかと思うことがある。