先生との恋・番外編集・
消えてしまわないように、
ここに留めておくために。
つい、声をかけてしまうのだ。
彼女に関わるようになって気づいたことは、年齢相応のとてつもなくエネルギッシュな時もあれば、びっくりするほど落ち着いて物事を見ている時があること。
大人になった自分を想像している時点で、そんなつもりはないとは思うけれど。
どこかで自分の命の終わりを諦めている節があること。
そして、落ち込む、とはまだ違うけれど気持ちの整理をしようとしている時があること。
力不足な僕は、その時々ぽろっと零した彼女の本音を聞くしかできない。
いつも。
僕が何も気にせず当たり前のように迎えた成人を、彼女は待ち望んでいるんだ。
迎えられない可能性も分かっていながら。
「おはよう、」
頭上の心電図モニターをぼんやり見つめていた彼女に声をかける。
視線が僕に向けられる。
まだ、覇気がない。
「おはよ、」
僕の知ってる中で、岡本心が病院内で1番元気がなくおとなしい時だ。
掠れた声で絞り出された声。
「調子はどう?」
「…さいあく」
「苦しい?」
「いんや。…呼ばれたかぁ」
あぁ、救急車ね。
大体彼女は、意識が戻ったあと、ここに運ばれたことに対して嘆く。
「もう大丈夫そう?」
「…取って」
わずかに動く腕。うん、と抑制帯を解く。
苦しくて暴れた証拠。わずかに赤くなっていた。
解いたけど動かそうとしない岡本さんに大丈夫?と声をかけると頷かれる。
「病棟の都合がついたらここを出れるみたいだよ」
それを聞いて頷かれる。
「…寝れた?」
「…あんまり。隣がうるさくて」
「そっか」
それは、かわいそうに。
ぼんやりしてる彼女が僕を見る。
少し、怒ったように。
口が、わずかに動くけど、聞き取れなくて。
「ん?」
口元へ、耳を寄せる。
「隣、自殺未遂だって。…死にたいならこの体あげるから、変わってくれたらいいのに」
ぽつり、小さく言葉を出した彼女。
その心の中の静かな怒りを感じた。
「…悔しい」
何が、とは言わなかった。
返事も、できなかった。
そのかわり、結ばれていた手首をそっと、撫でる。分かってるよ、その気持ちを込めて。
苦しいながらももがいて頑張ろうとしていた証拠を。
そうしながら、元気なら乗り込んで本人に言いに行きそうだな、と思った。