溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(王子、日本に来て【長い】のかなぁ)

 勝手に不破(ふわ)のことを外国人だと決めつけている日和美(ひなみ)は、ぼんやりとそんなことを思って。

「あの……くれぐれも無理だけはしないでくださいね? 私、不破さんに何かあったらめちゃくちゃ泣いちゃいます」

 出先で不意に記憶が戻って、そのままアパート(ここ)に帰って来なくなってしまったら……とか思ったら、不安でたまらない。

(出来ることなら閉じ込めてしまいたいくらいですっ!)
 などと過激なことを考えているだなんて、バレるわけにはいかないではないか。


「はい。気を付けます。出かける時は電話を絶対持って出ますし、それに――」

 そこでカバンからゴソゴソと小さなアルバムを取り出した不破に、日和美は思わず目を(みは)った。

 それを見せてくれながら、スマートフォンとは別に、「日和美さんと撮った写真も肌身離さず携帯するようにします」と付け加えてくれた不破に、日和美は嬉しくて参ってしまう。


 実は先日、通販サイトでスーツに合いそうな男性向けビジネスバッグと、カジュアルな服に合いそうなボディバッグも買ってしまった日和美だ。

 いずれもどんな服にも合わせやすいよう黒いのを選んだのだが、不破はそのカバンに携帯電話だけではなく、百円ショップで買ってきたアルバムも入れて持ち歩くつもりらしい。

 不破は記憶喪失になった際、身元の分かるものを一切持っていなかった。あの時せめて携帯電話を持っていたならば、今みたいな根無し草にはなっていなかっただろう。

 それを踏まえた上での用心らしいのだが、実際そうしてくれると言われただけで、日和美はすごく心強くて。

(もし不意に記憶が戻られて私のことを忘れちゃったとしても……接点ゼロにはならない……よね? 写真には不破さんの手でメモ書きもされてるし)

 そんな風に思ってしまった。

(そういえば不破さん、メモ書きの最後。「ぼくに何か」の後には何て書いたんだろう?)
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