それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「お母様は、『他の教科も』と仰っていますが、彼女、中間試験前も期末試験前も、学校で自習している時間のほとんど、苦手としている数学に時間を費やしていましたよ」

先生は穏やかな笑みで、けれどきっぱりと告げる。

「僕、あれだけ、苦手な教科にひたむきに取り組むことが出来る生徒、正直他には知りません。あれだけ、得意ではない教科と真摯に向き合えるのは、もはや才能です。素晴らしい才能ですよ」

「先生……」

まさか、今、この場で、私を褒めてくれるなんて。
お母さんと中野先生と違う意見を発して、庇ってくれるなんて。

思わずつぶやいた私に、先生は、「だってお前、頑張ってたじゃん」と、とびっきりの笑顔で告げる。

「お母様は心配されているかもしれませんが、大丈夫ですよ。彼女、成績を伸ばすために、自分が今、どの教科に注力するべきか、きちんとわかって取組んでいます。だから、大丈夫ですよ」

「……そうですか」

お母さんもまさか先生から、こんな話を聞くとは思っていなかったのだろう。

呆気にとられた様子で、返事をした。

「それに」

先生はチラッと中野先生を見ると、「生意気なことを言いますが」と前置きをしてから続けた。

「吉川さんは、吉川さんです。考え方も、勉強の仕方も、得意な教科も、才能も、きっと将来彼女がなりたいであろう姿も、お姉さんとは全部違います。それなのに、単純に、お姉さんの成績の取り方や努力の仕方が、吉川さん自身にとっても目指すべきものと考えてよいのでしょうか? それは本当に正しいのでしょうか?」

先生は口元に手を当てて、考える素振りを見せた。

「ちょっと、畑中先生……」

中野先生はなにか言いかける。
けれどそれを畑中先生は、「やっぱり」と遮った。

「たった3か月しか一緒にいない僕が言うのも烏滸がましいですが……彼女、全力で、自分のために頑張っていますよ。きっと、お母様が想像するより、色々考えながら頑張っています」

「けどね、先生」

お母さんはため息をつきながら続けた。
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