夜桜
「誠守、 なぜここに?」

「土方さんからの命です。 池田屋へ行けと。」

隊に追いついた私は、藤堂さんから話しかけられた。

「そうか。お前がいてくれたら安心だ。行くぞ。」

「はい。」

その時、隊列から離れた隊士を見た。
よろめき、前かがみになっている隊士に、私と藤堂さんが駆け寄った。

「沖田さん!?」

「総司、具合が悪いのか?」

咳をする沖田さんは首を横に振り、立ち上がった。

「大丈夫ですよ。すみません。 緊張してしまって。」

顔色が悪く見えたが、暗くてよく分からない。だが、 本人が大丈夫と言うのなら問題ないだろう。

「立てるか?総司。」

「うん、ありがとう。」

手を取り合った藤堂さんと沖田さんを見て、少し安心した。

この緊迫した状況下で、彼らはいつもと変わらなかったから。

今夜、私たちは一歩前進する。 私たちは先を行く隊を追いかけた。

「誠守!藤堂!総司!大丈夫か?」

「問題ありません。」

池田屋の近くで、ようやく追いついた。

近藤局長らは、遅れた私たちを待ってくれていたらしい。

私たちは建物の陰で、池田屋の様子を伺っていた。

提灯の明るさで、皆の顔が良く見える。

沖田さんの顔色がさっきより悪くなっているのは、私の勘違いではなかった。

「総司、行けるか?」

「無論です。」

ここ最近体調が優れない沖田さんのことを、気に留めてはいたが、目の前で辛そうに咳をされては、心配を越してしまった。

背中を擦ると、それは落ち着いた。

その時、私たちめがけて走ってくる男がいた。
偵察に行っていた山崎さんだということに、あまり時間を用いなかった。

「近藤局長、本命は池田屋です。」

山崎さんの発言に、皆の顔が引きつった。

「伝令ご苦労。早急に土方副長がいる四国屋に伝えよ!ここはまず、俺たちだけで踏み込むぞ!」

全員が勢いよく前を向いた。山崎さんはもう走り、はるか遠くだった。

「新選組、出陣いたす!俺に着いてこい!」

池田屋の前まで行き全員が頷いた。

近藤局長が思いきり戸を蹴り破った。

「会津中将殿お預かり新選組!御用改めである!」

近くにいた女中が悲鳴を上げる。私は刀を抜き、構えた。

「斬れ!斬れーっ!」

「手加減無用だ!出迎える者は全て殺せ!」

奴らは二階にいた。一人の男と目が合う。

私は近藤局長に続き、二階へ続く階段を駆けあがった。

近藤局長が刀を振り下ろすと、敵は雄叫びを上げてうずくまった。

私も敵を斬る。返り血が私の顔を汚す。

「宮部先生逃げてください!」

そんな声が奥から聞こえた。宮部...。

「誠守!」

近藤局長が私の背中を押し、奥へとやった。

「宮部を殺せ!」

「御意!」

振り向くことなく奥へと突き進んだ。

宮部鼎蔵。 尊王攘夷派の志士、 熊本藩士だ。敵の重要人物。

先生と呼ばれる奴は、そこらの並の藩士よりも位が高く、慕われているのだろう。

奴の名は、土方さんからも聞いていた。

「宮部鼎蔵という男を見たらすぐに殺せ。」

敵の頭と呼ぶ者なのか。

だが、 土方さんが言うなら、何としてでも殺さなくてはならない。

私に立ち向かってくる藩士の腕は、私の足元にも及ばない。

私が少し腕を振れば、ばたりと音を立てて死ぬ。

「宮部!」

私が声を上げると、奴は刀を抜き、私に構えた。
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