甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……え……?」


さらりと告げられた単語に目を見張った。

脳内に風間さんの言葉が繰り返される。


好き?


私が、郁さんを?


“好き”


短い単語が花弁のようにひらひらと舞って、心の奥底にゆっくりと落ちた気がした。

そしてそこが正しい到達点であるかのごとくじんわりと馴染んでいく。


……ああ、私。


いつの間にか郁さんを、好きになっていたんだ。


その瞬間、心と思考が一気に繋がった気がした。

彼の仕草に視線を奪われるのも、言葉ひとつに心が震えて揺れるのも、憧れと尊敬だけじゃない。

それ以上の気持ちを抱いてしまっていたから。

恋愛は不向きで、もうこりごりだと思っていたのに……恋に落ちてしまった。

指摘されて気づくなんて、どれだけ鈍いのだろう。

しかも出会って短期間で恋する私は、単純すぎないだろうか。

つい最近まで匠眞との件で悩んでいた姿を知っている彼に『あなたを好きになりました』なんて到底口にできない。

どれだけ簡単な女だと思われるだろう。

郁さんが望んでいるのは、自身の利益を満たす女性だ。

一方的な好意に辟易している彼には、私の想いなんて負担でしかない。


「沙也ちゃん?」


黙り込んだ私を訝し気に見つめる風間さんに、慌てて首を横に振る。


「郁さんに気持ちを伝えるつもりは、ありません」


「え、どうして?」


「お願いします。郁さんに言わないでください」


必死で言い募る私に、風間さんが困惑しながらもうなずく。


「でも、沙也ちゃん……」


なにか言いたげに風間さんが口を開いたとき、廊下が急に騒がしくなった。
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