甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……私だって、あなたを独り占めしたい」


「沙也?」


「入籍してから、ずっとそう願っていた。でも口にすべきじゃないと言い聞かせていたのに、なんでそうやって惑わせるの……?」


心の奥底から熱い想いがふつふつとこみ上げ、視界が滲む。

泣いてはダメだとわかっているのに、漏れだした感情をもう止められない。


「あなたが好き。好きで、もうどうしようもない」


強い想いに声が震える。

郁さんの反応を知るのが怖くて咄嗟に下を向くと、堪えきらなくなった涙がぽとりとこぼれ落ちた。

フローリングの床に丸い染みが幾つもできる。

誰かに気持ちを伝えるのがこれほど怖いとは知らなかった。

心が丸裸にされたようで不安が募る。

関係を保つためにこの想いは口にすべきではないとわかっていたのに、隠し通す余裕はもうなかった。


「沙也……今のは本当か?」


先ほどとはまったく違う低い声に、瞼をぎゅっと閉じる。


もしや不愉快にさせた?


氷塊をのみ込んだように心が急速に冷えていく。


「顔をあげて」


有無を言わせない声音にそろそろと頭を上げる。


「それこそ今さらだ、沙也」


初めて目にする、困ったような眼差しが私を見据える。


「どれだけお前に恋焦がれていたと思う? ほんの少しずつでも気持ちを向けてほしいとこれほど誰かに願ったのは初めてだ」


「え……」


「最初に言っただろ? 俺はお前を好きだと」


耳に届く優しい声に心が震えた。
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