甘やかし婚 ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
そのとき、入り口がざわりと騒がしくなった。
思わず振り返ると、郁さんの姿が目に入った。
郁さんが私を見て、ほんの少し目尻を下げる。
些細な仕草に心がトクンと揺れる。
その後、郁さんが加わったことにより、さらに話し合いが進む。
私の作業はひと段落したが打ち合わせはまだ続いていたため、許可を得て庭の見学に出かけた。
静かで落ち着いた雰囲気に、重い疲労が抜けていく気がした。
料理教室を行うテーブルからこの場が見えることに気づき、通行人へのアピールになるのではと考えを巡らせる。
思った以上に集中してしまい、近づく足音を聞き逃していた。
「――あら、倉戸さん?」
「……飯野、さん」
カツンと高いヒール音を響かせて、黒いノーカラーのパンツスーツ姿の飯野さんが歩いてくる。
相変わらずの完璧な装いに圧倒される。
「なんであなたがここに? 妻だからってこんなところまで来ていいの?」
「いえ、佐月製菓の一社員として来ています」
「あら、そうなの……ってあなた、勤務しているの?」
「はい」
私の返答に飯野さんは片眉を上げる。
「せっかく玉の輿に乗ったのに?」
「……郁さんのご実家は関係ありません」
「そう……意外ね。郁は店内にいるの?」
眉根を寄せ、なにか思案するような表情を浮かべた飯野さんが尋ねる。
「はい、あの今、弊社営業担当者と話をしていますが……」
「商談の邪魔をするつもりはないわ。以前ここに来た際に忘れた私物を取りに来ただけよ」
どこか意味深な台詞を口にする飯野さんになんと返せばよいかわからない。
思わず振り返ると、郁さんの姿が目に入った。
郁さんが私を見て、ほんの少し目尻を下げる。
些細な仕草に心がトクンと揺れる。
その後、郁さんが加わったことにより、さらに話し合いが進む。
私の作業はひと段落したが打ち合わせはまだ続いていたため、許可を得て庭の見学に出かけた。
静かで落ち着いた雰囲気に、重い疲労が抜けていく気がした。
料理教室を行うテーブルからこの場が見えることに気づき、通行人へのアピールになるのではと考えを巡らせる。
思った以上に集中してしまい、近づく足音を聞き逃していた。
「――あら、倉戸さん?」
「……飯野、さん」
カツンと高いヒール音を響かせて、黒いノーカラーのパンツスーツ姿の飯野さんが歩いてくる。
相変わらずの完璧な装いに圧倒される。
「なんであなたがここに? 妻だからってこんなところまで来ていいの?」
「いえ、佐月製菓の一社員として来ています」
「あら、そうなの……ってあなた、勤務しているの?」
「はい」
私の返答に飯野さんは片眉を上げる。
「せっかく玉の輿に乗ったのに?」
「……郁さんのご実家は関係ありません」
「そう……意外ね。郁は店内にいるの?」
眉根を寄せ、なにか思案するような表情を浮かべた飯野さんが尋ねる。
「はい、あの今、弊社営業担当者と話をしていますが……」
「商談の邪魔をするつもりはないわ。以前ここに来た際に忘れた私物を取りに来ただけよ」
どこか意味深な台詞を口にする飯野さんになんと返せばよいかわからない。