甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「じゃあまた後でね」


昼食をともにした塔子と、五階フロアで手を振って別れる。

今日は午後二時から佐多くんと塔子、営業部の上司とともにカフェレストラン現場を訪問する予定になっている。

完成間近になった実際の現場を見て、料理教室の最終調整をするのが目的だ。

郁さんは午後一番に外せない約束があるそうだが、早めに切り上げて合流すると昨夜自宅で話していた。

今さらだが、取引先のひとりとして顔を合わせるのに緊張してしまう。

時間通りに現場を訪れ、目にした店舗に感嘆の声が漏れた。


「素敵なお店ですね。特にこの花壇に目を奪われます」


「ありがとうございます。店舗前の花壇はこだわった箇所のひとつなんです。テラス席も今、用意しているところなんですよ」


店舗の入り口付近で、響谷の営業担当者の男性が丁寧に説明してくれる。

住宅街がすぐ近くにあるので周囲になじむよう、落ち着いた外観と雰囲気を目指したそうだ。

石造りの門構えが目を引く。

こだわりの大きめの花壇には小さな小道もあり、様々な花が美しく咲き誇っている。


「どうぞお入りください」


中に案内され、内装のすばらしさにも圧倒されつつ業務を行う。

広さや動線などを確認し、気づいた点をいくつか上げる。


「ここに椅子を置いていただけると助かります」


「保護者の方と少し離れて作業するのはいかがですか? この位置からなら手元の確認もできますし……」


担当者の方と意見を交換している間、佐多くんと塔子はそれぞれ材料や製品など細かい点の打ち合わせをしていた。
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