甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
幸いにもエレベーターがすぐにやってきて、ふうっと息を吐く。

少しこじつけのような気もしたが、やはり仕事と関係ない場所で兄弟ふたりだけで少しでも過ごしてほしかった。

義兄と郁さんは軽口を言い合っているが、とても仲が良い。

年齢差もあるが、義兄はなにより郁さんを可愛がっているように思う。

そもそも郁さんは結婚のいきさつについて、偶然、以前から知り合いだった私とflowerで再会して意気投合した、と義両親に説明したそうだ。

入籍を決断するまでの期間の短さは、お互いに強く惹かれあうものがあったからだと伝えたらしい。

そんな適当な理由でよく反対されなかったと思う。

彼の重い立場を鑑みると、ありえない気がするのは私だけだろうか。

あれこれ考えを巡らせるうちにエレベーターが一階に到着していた。

いつもよりも時間をかけて宅配ボックスまで向かい、荷物を取り出す。

その後、メールボックスで郵便物を確認する。

途中で管理人さんとすれ違い、少しだけ世間話をしてこれまたゆっくり自宅に戻った。

なんとなくそうっと玄関ドアを解錠し、小声でただいまをつぶやき、室内に足を踏み入れる。

玄関脇の飾り棚にコンタクトレンズと郵便物を置く。

なにもやましい出来事はないのだが、ふたりが話し込んでいたらと思うと、自ずと音をたてないようにと慎重になる。
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