甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「それじゃあね、お幸せに」


無理やり明るい声を絞り出し、笑顔を張り付ける。

泣きたいのか怒りたいのかわからないが、無様な姿だけは見せたくない。


「……ああ。お前も元気でな。また報告する」


いらない、と後先考えずにハッキリ拒絶できればどれほど楽だろう。

改札を通る彼を尻目に、急いで駅から離れる。

世間話を装って私の心を乱す匠眞が、今は怖くてつらい。

鼻の奥がツンとして、思わず瞬きを繰り返す。

こんな会社の近くで泣くわけにはいかない。

助けを求め、思わず親友に電話をするが留守番電話に切り替わってしまう。

千々に乱れた心を抱えて帰る自信のない私の脳裏に、仕事帰りによく利用しているカフェが浮かんだ。

会社から歩いて十五分ほどの場所にあるカフェ、flowerは、南国風の明るい雰囲気で私のお気に入りの場所だ。

六つほどのテーブル席に広めのカウンター、奥には三つほどの個室がある。

カフェオリジナルの少し甘めのカフェオレが大好きで、疲れた日などはよく注文している。

ふらつく足取りで一心にカフェを目指し、やっとの思いでたどり着いた。

木目が美しい、どっしりとした扉の取っ手を握った途端、体が前のめりに引っ張られる。

店内から扉が開けられたようで、咄嗟の事態に対応できなかった。
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