甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
交差点を渡り始めると彼が口を開いた。


「佐多と付き合ってるのか?」


「まさか、ありえないわ」


「アイツは昔からお前を庇ってばかりいたからな。退職を拒否したのは佐多が原因だったんじゃないのか? お前、男は苦手とか言うわりに佐多とだけは仲良くしてただろ」


「佐多くんは同期の友人、それだけよ」


まるで浮気を咎めるような物言いに、呆れを通り越して悲しくなる。


「まあ、俺には関係ないけどな。お前の俺への気持ちなんて所詮たいしたものじゃなかったわけだし」


言葉の端々に滲む剣呑さに気持ちが沈む。


「札幌で素敵な女性に出会ったんだ。彼女との将来を真剣に考えてる。沙也と違って退職も考えて俺と向き合ってくれている。お前に断られた時点でさっさと別れたらよかった。無駄な時間を過ごしたな、お互いに」


「そう……おめでとう」


祝福を口にするだけで精一杯だった。

『無駄な時間』なんて曲がりなりにも交際をし、将来を一緒にと一度でも考えた相手に直接向ける台詞なのだろうか。

そこまで疎むほど、私との付き合いは苦痛だったのか。

自分の感情を吐露するのが苦手な私は、相手に伝える前にあきらめてしまう場合もある。

私のそんな内向的な部分が不満だと匠眞に言われたのは、一度や二度ではない。

すぐ目の前が駅でよかった。

彼の結婚報告はまったくショックではないけれど、これ以上会話をしたくない。
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