甘やかし婚 ～失恋当日、極上御曹司に求愛されました～

「――とでも言われたら満足か？」


「え？」


突如口調と態度がガラリと変わった彼はまるで別人のようで戸惑う。


「オーナー、今日少し試してみたリキュール入りのコーヒーです」


場を取り繕うかのように風間さんが慌てた様子で話題を変え、響谷さんの前にカップを置いた。


「ああ、ありがとう」


「よかったら倉戸さんもどうぞ。お酒が少し入っていますが大丈夫ですか？」


「……ありがとうございます」


目の前に置かれた湯気の立つカップを無言で見つめる。

響谷副社長にどう反応していいかわからない。


「自分を責めて悲しみに浸っているみたいだが、そんなのただの自己満足だ。そもそも恋人を本当に好きだったのか？」


「郁、言い過ぎ」


こちらも一転して口調の変わった風間さんが窘める。


「事実だろ。相手が大切で結婚したいなら不都合には目を瞑って突き進めばいい」


「正論だけど、そううまく進むわけないだろ。お前のほうこそ三十歳にもなって、相手への口の利き方と思いやりをわきまえろ」


「俺は間違ってない」


響谷さんが傲慢に言い切る。

状況がつかめず、私は目の前のコーヒーを一気に飲んだ。

正直お酒は強くないし苦手なのだが、今はなにか口にして脳内を整理したかった。

それでも考えれば考えるほど、初対面の人間に言う台詞ではないと思ってしまう。