甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……響谷副社長みたいに外見もなにもかも完璧な人には私の気持ちなんてわかりません」


「なに?」


「大企業の副社長を立派に務めて、気遣いもできて、カフェも経営できて。すべて手にしているような人に私の葛藤を簡単にあしらわれたくないです」


一気にまくしたてる私を、彼が綺麗な二重の目を細めて見る。

こんなのは完全な八つ当たりだ。

ふたりは親切心で話を聞こうとしてくれたに過ぎない。

本気にした挙句、言い返すなんて社会人として最低だ。

わかっているのに、一度吐き出した感情は止まらなかった。


「結婚はいつかしたいですけど、誰でもいいわけじゃない。相手なんて早々見つかりません」


「努力が足りないだけだろ」


「恋愛は努力だけではできません!」


思った以上の大声に周囲が注目しているのがわかる。

普段の私ならこんな願望は口にしないし、きっと反論すらしない。

けれどこの人相手にはなぜか引き下がれなかった。


「札幌に行くべきなのか何度も考えました。意見を譲るのも大切だと悩みました。大した内容の仕事じゃないと言われたけど、私なりに誇りをもって取り組んできたんです」


感情が高ぶって声が詰まる。

むきになって反論するなんて、大人の女性の振る舞いとは思えない。


「自分は頑張ってると言い聞かせてるあたりがまさに悲劇のヒロインだな」


呆れたように言って、彼がカップに口をつける。
< 29 / 190 >

この作品をシェア

pagetop