甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……あなたに私のなにがわかるんです?」


「それを言うなら、お前に俺のなにがわかる?」


鋭い視線が真っすぐに私を射抜く。

美麗な面差しの人が凄むと迫力がある。


「私と違ってお相手がたくさんいると思っています」


今朝の親友と後輩の会話を思い出す。

腹立たしい言い合いに疲れ、今度こそ帰ろうと立ち上がった途端、視界がぐるりと回った。

思わずテーブルに手をつくと、風間さんに声をかけられた。


「倉戸さん、大丈夫ですか?」


「……平気です。すみません、少し立ち眩みがしただけなので」


きっと口にしたアルコールのせいだろう。

どこまでも情けない自分がつくづく嫌になる。

この状況でさらに心配されるなんて、恥ずかしいにもほどがある。


「とりあえず、座って。ここじゃなんだから個室を……」


風間さんに大丈夫だと再度伝えるため口を開いた途端、体がふわりと浮いた気がした。

違和感に首を動かすと、響谷副社長が私を横抱きに抱えていた。


「あ、あのっ響谷副社長!」


(たもつ)、水とタオルを持ってきてくれ」


「わかった」


「待って、おろしてください。大丈夫です、歩けます」


私の声が聞こえていないのか、彼はそのまま歩きだす。


「暴れたら落ちるぞ」


物騒な物言いとは裏腹に、私に触れる指はどこまでも優しい。

こんな風に男性に抱えられるのは初めてで、どうしてよいかわからない。

周囲の店員の視線が刺さり、居たたまれない。

恥ずかしさと驚き、緊張で心拍数が一気に上がっていく。
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