甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「普段の沙也はもっと感情表現豊かなのにって違和感があったの」


わかりやすい真っすぐな物言いがストンと胸の奥に染み込んだ。


「この年齢になって本心をさらけ出せる人って貴重じゃない? 素の性格を知って疎ましがられるどころか、受けとめたうえでパートナーに望まれるって稀でしょ」


「でも感情のままに行動するなんて、社会人失格よ。大人げないって後悔してる」


「恋愛は仕事じゃないわ。なにより限られた時間で相手の本音を引き出して向き合えるってすごいと思うわ」


経験値の差もあるだろうけど、と事もなさげに塔子は口にする。


「沙也は無駄に責任感が強いから多少強引にでも甘やかしてくれる人のほうがいいわよ」


私をよく理解してくれている親友の温かさに涙腺が緩む。


「……ありがとう、塔子。心配かけてごめんね」


「大事な親友を気にかけるのは当然でしょ」


茶目っ気たっぷりに返答する塔子。


「話を戻すけど、断るにしてももう一度会って話すべきよ。店長にもきちんとお礼とお詫びを伝えていないんでしょ?」


「うん……だから今日の帰りに寄るつもりなの」


「そうね、賛成よ」


本来は翌日すぐに伺うべきだったのかもしれないが、色々悩んでしまい精神的な疲労も重なって体が動かなかったのだ。

風間さんには話を聞いてもらったし、食事や飲み物もご馳走になっている。

なにより研修の邪魔もしてしまった。

正確に言えば諸々お世話になったのは響谷副社長だが、それでも改めて風間さんにお礼を伝えたい。


「なんなら店長にも相談して、もう一度よく考えなさい」


どこまでも心配性な親友の忠告を胸に、私は目の前の食事に手を付けた。
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