甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
午後六時半過ぎに退社した私は、菓子折りを手に、急いでflowerに向かった。

この時間帯は店内が混雑しているかもしれないと考えつつ、そうっと扉を開ける。

響谷副社長の件は悩ましいが、まずは風間さんにお礼とお詫びを伝えたい。

店内に響谷副社長がいる可能性を考えたが、過去にここで出会った記憶はない。

そもそも多忙な彼が頻繁に足を運ぶとは考えにくい。


「いらっしゃいませ!」


店員の明るい声が響く。


「あっ倉戸さん、すみません。オーナーは……」


この間ですっかり顔見知りになった男性店員の言わんとする内容がわかった私は、かぶりを振る。


「今日は風間さんにお礼とお詫びに伺ったので」


「そうですか。では先日と同じ個室に案内します」


「いえ、そんな。予約もしてませんし、すぐにお暇しますので」


突然やって来た私が個室を再び占領するなんて図々しすぎる。


「倉戸さんが来店されたら、個室に案内するよう全スタッフが指示を受けているので遠慮しないでください」


とんでもない台詞に思わず目を見開く。

彼は戸惑う私に構いもせず、記憶に新しい個室に案内してくれた。

店内で一番奥にあるこの部屋は、ほぼオーナーと店長の打ち合わせ用にのみ使われている個室だという。


「店長は今、接客中なので申し訳ないですが少し待っていただけますか」


「すみません……よろしくお願いします」


笑顔の店員が去った後どうしようかと逡巡しつつ、入り口を背にしたソファ席に腰を下ろす。
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