甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……本当に?」


探るように響谷副社長が私の目を覗き込む。

力強くうなずくと、彼は深いため息をひとつ吐く。


「誤解して、申し訳ない」


先ほどとは打って変わって、穏やかな声で謝罪した彼に、男性は慌てたようにうなずいて去っていった。


「響谷副社長、手を……」


放してほしいと口にする前に腕をほどいた彼は長い指で私の左手を絡めとり、指先にキスを落とす。

突然の行為に目を見開く。


「――ねえ、もしかしてあの人」


「響谷副社長よ!」


「すごくカッコいいわね」


周囲から女性の興奮した声が聞こえる。

街中ですぐに注目される彼はやはり有名人なのだと思い知る。

向けられる視線にいたたまれなくなる私をよそに、副社長は私の手を引き、歩き出す。

連れてこられた場所は人気の少ない路地だった。

微かな街灯が照らされた歩道が心細くなり、思わず問いかける。


「あの、なんでここに……」


その後は言葉が続かなかった。

突然足を止めた彼が振り返り、私を広い胸に抱きしめた。


「……悪かった」


押し殺したような低い声に心が震える。


「沙也がほかの男に絡まれてるのかと心配したんだ」


ぎゅっと背骨が軋むほど強く抱きしめられ、彼の胸の中で息を呑んだ。


「……誤解です」


トンと副社長の胸を押して離れようとした瞬間、再び腕を取られて抱き込まれた。
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