甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
自分の考えを整理するのに精一杯で、周囲が見えていなかった私の肩が行き交う人にぶつかる。


「あっ、すみません」


「いえ、こちらこそ」


ぶつかったのは同世代と思わしき会社員の男性で、手にはスマートフォンが握られていた。


「地図を見ていたので申し訳ない。大丈夫ですか?」


丁寧な謝罪と親切な問いかけに返事をして、頭を下げる。

ふと目に入った画面には私が知っている店が表示されていた。


「このお店に行かれるんですか?」


「ええ、そうなんですが見つからなくて」


「最近移転されたんです。この先の角を曲がって左側にありますよ」


「そうだったんですか! ありがとうございます、助かりました」


「いえ、私のほうこそぶつかってすみません」


もう一度謝罪して男性を見送ろうとした途端、私の体がグイッと後ろに引かれた。

不自然に傾いた体が、トンと大きななにかに受けとめられる。


「――俺の婚約者になにか?」


耳に響く低音に背中に痺れがはしる。

腰に回された大きな手のぬくもりに心が乱される。

ぎゅっと背中を抱え込むように抱き込まれ、伝わる体温と香りに心拍数が上がる。


「婚約者……? ああ、いえ、そんなつもりは……道を教えていただけで」


「違います、私の不注意でぶつかった方です」


どうも変な誤解をしていそうな副社長に、首だけ振り返り慌てて説明をする。
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