甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
五階にたどり着き、大きく息を吐いた。

無意識に止めていた息を吐き出し、ふと周囲を見渡すと、廊下を歩いている女性社員がなぜかいつもより多かった。

しかも皆、身だしなみが完璧だ。

女性たちの普段よりきつめの香水が香る廊下を抜け、自席に戻るとすぐに後輩に声をかけられた。


「沙也さん、大変ですよ!」


「なにかあったの? もしかして今日って営業課との懇親会?」


時折、各課との親睦の意味を込めて合同の懇親会が開かれる。

女性社員から人気のある営業課と懇親会がある日は、先ほどのような光景をよく目にする。


「違います」


壁にかけられた時計に視線を向けながら、由衣ちゃんが全否定する。


「じゃあなに?」


「さっき響谷副社長が来社されたんです!」


「え……?」


後輩の返答に思わず瞬きを繰り返す。


「驚きますよね、私も耳を疑いました。以前篠崎先輩が響谷副社長の訪問はありえないっておっしゃっていたばかりなのに!」


「来社って、ここに? 今?」


「ええ、十五分くらい前にアポ無しで来られたみたいで、もう秘書課、営業課大騒ぎですよ。うちの社長は今朝から福岡に出張していますから副社長に必死で連絡しているそうです」


「副社長が……」


なんで、うちに来るの?


脳裏に今朝の電話のやり取りが浮かぶ。
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