甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「寝室に行こう」


ペットボトルを冷蔵庫に戻した郁さんが、私の右手を自身の左手で包み込む。

強い視線を向けられ言葉を失う。

そのまま手を引かれ、十畳ほどある寝室に案内された。

寝室を挟んだ位置に私と彼の仕事部屋があるという。

キングサイズのベッドが大きな引き違い窓と平行に置かれている。

奥には広いクローゼットがあるが、そのほかの家具は見当たらない。


「おいで」


先にベッドに入った彼が、立ち竦む私に両手を広げる。

悩んでいたはずなのに、優しい声に導かれ、私の体は郁さんの胸元に向かう。

ぽすんと胸に収まった私を彼がそっと抱きしめた。

私の髪を大きな手で撫で、顔を寄せる。

この数日で慣れてしまった腕の中の感触と体温が心地よくて、なぜか泣きたくなる。

ベッドの真ん中で横になり抱きしめられ、緊張で心臓が早鐘を打ち、彼の動作すべてから目を離せなくなる。


「……俺と同じ香りがする」


クンと私の髪の香りを嗅いだ夫が耳元で囁く声に、ピクリと肩が跳ねた。

少しだけ顔をあげると、吐息の触れそうな近い距離で彼が私を見つめていた。

フッと視線を緩めた郁さんが私の額、頬、鼻、こめかみにキスの雨を降らせる。

首筋を骨ばった長い指がそっとたどり、鎖骨の部分にも口づけられる。

軽く甘噛みされて思わず小さな声が漏れた。

戻ってきた唇が私の唇にゆっくりと触れる。

しっかりと合わせられた口づけは深く、長い。

段々と激しくなるキスに思考が追いつかない。

長いまつ毛に縁取られた目には、抗いようのない色香が交じる。
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