甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「――俺にも飲ませて」


背後から伸びた手にハッと我に返る。

振り返ると、私の手の中にあったペットボトルを口にする郁さんがいた。

飲み物を共有するのを躊躇わない仕草に、内心驚く。

まだ濡れたままの髪と、ふわりと香る石鹸らしき香りに落ち着かなくなる。


「素顔、初めて見た」


まじまじと見つめられて、じりじりと両手で顔を隠しながら後退する。


やっぱり少しは化粧すべきだった……?


今後毎日きっちり寝化粧をできる自信もなく、さらに化粧品は自室だしと自分に言い訳をして、簡単な基礎化粧品で肌を整えただけだった。


いくらなんでも結婚初日にはふさわしくなかっただろうか?


「ちょっと……お化粧をしてきます」


「なぜ? その必要はない。ちゃんと見せて」


いうが早いか、ペットボトルをテーブルに置いた彼が私の両手を顔からどける。

骨ばった指が私の輪郭をするりと撫でる。


「……可愛いな。沙也のパーツのひとつひとつが好きだ」


自然な口調で告げられ、返答に窮する。

素顔が嫌だと言われても困るが、可愛いと言われるのも初めてでどうしてよいかわからない。


「髪、ちゃんと乾かしたか?」


髪に触れた彼が尋ねる。


「う、うん」


「次は俺が乾かしたい」


思いもよらぬ発言に瞬きを繰り返す。


「可愛い妻の世話は俺の特権だ」


甘い視線を向けられ、返答に詰まる。

彼の距離の詰め方に困惑してしまう。
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